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30年9月14日 沖縄全国同業者(税理士)研究集会の研究発表を終えて:::

千葉税経新人会 沖縄全国研究集会の研究発表
「事業承継税制徹底活用!」 千葉税経新人会 黒川豊 



講演後、改めてこの制度についての注意点をまとめさせていただきました。

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事業承継税制(非上場株式についての贈与税等の納税猶予及び免除)は、ある程度の規模の雇用(外部社員を10名程度と紹介させいただきます。)を継続出来ない会社には不向きです。そもそもこの制度は、技術の承継や雇用の確保が大前提となっており、この制度を利用して相続税を安くしようなどといった安易な考えで適用するものではありません。なぜなら適用後の後継者(後継者から三代目に贈与をすれば、三代目)にとって生涯に渡り影響を与えることになる税制であるからです。



当初5年間の特例承認期間の県等への報告の際に、またはその後三年に一度の税務署への届出の際に外部従業員が4名と記載した書類を提出すれば、即納税猶予関連の調査をされ資産保有型会社に該当しないか?について日々判定され、又は資産運用型会社に該当しないか?を各事業年度末判定がされることになるからです。要するに従業員の少ない顧問先様に適用させると税理士自身も一生この制度の適用が不可(猶予の確定)とならないかという心配をし続けることになるのです。



(1)代表者は三名までと複数代表制がとれることとなっておりますが、例えば代表権をもっている兄弟三人が争いになったらどうでしょう?ですから、私は「代表取締役社長は一名の方がよいです」と顧問先様にお伝えしております。



(2)この特例は、複数の者からの第二種特例経営承継としての贈与等(同族関係者以外の無数からの贈与がOK)(従来制度でも第二種経営承継としてこの適用が受けられるようになっております。)は適用せずに、連年贈与等で対応をします。先代一人の納税猶予一連の作業でも大変な税務手続きとなるのに、ちっぽけな株式数でわざわざ第二種特例経営承継としての贈与等などを適用することなどできません。



(3)もしこの制度を利用するなら、必ず相続時精算課税を適用することをお勧めいたします。それはこの制度の適用が取り消される事由が生じて猶予の確定がなされた場合に税理士に損害賠償される可能性があるからです。猶予が確定されれば、基本的には暦年課税の方が実効税率は高くなると考えられるからです。逆を言えば、そのような納税者を対象にこの制度を利用しているとも言えるでしょう。



では、実際にこの制度を利用することを前提として今日からその顧問先様に何をしていくか?納税が猶予や免除されるからほっておいていい?そんなんじゃありません。例えば一般的な相続税でも配偶者の税額軽減があるから安心だ、などといって相続対策をしていない税理士がいるとすればそれは誤りで、他の相続人が多少の財産でも相続する場合には、相続税の総額を計算する段階では配偶者の税額軽減されることとなった元の財産も含めて計算がされるのです。過去にこのような事例がありました。相続税の申告が終わった後に預金が1,000万円出てきたのです。修正申告書を作成して配偶者の税額軽減に余りがあるから、1,000万円をすべて配偶者に相続させたところ、他の相続人の40万円〜50万円(相続した財産に応じて)の納税が生じたのです。要するにこれも事業承継税制での納税の猶予又は免除と同じことで、相続税の総額を計算する段階では、この株価は財産に算入されておりますから、他の相続人には一切の猶予も免除もありません。(農地の納税猶予の場合には農業投資価格で相続税の総額が計算されることとなりますから、他の相続人にも影響しないで済みますが:::)



事業承継税制の適用をしようとする会社は、35年3月末までに計画書を提出して39年12月末までに贈与等を実行してこの適用を受けることとなりますが、まずは会社の不良と名の付く在庫、債権、資産などの処分を実施の上の可能な範囲内での連年贈与を実行していくべきであると考えます。



その際に顧問先様の会社が株券発行会社となっている場合には、株券不発行会社への定款変更もしておくべきです。発行会社の場合には株式を発行してこの制度利用の際に税務署に株式を担保として差し入れなければなりません。また、実際にあった話ですが父は後継者である長男に自社株を贈与して納税猶予手続きを済ませた後に事業承継で揉めた他の相続人から「その自社株の移動は無効だ!」と訴えられたのです。



会社法第128条(株券発行会社の株式の譲渡)より

1.株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

2.株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。



次にその会社の実際の株価を算出し、連年贈与では無理な額であり、猶予される税額を算出(この際には先代が所有する他の相続財産も概算額で含めて算出する必要があるでしょう。)し、実際にどの程度の猶予及び免除額となるかを先代に提示することが大切です。また、この制度を適用した場合には私たちの税理士成功報酬(制度選択申告関連で最低でも50万円、その後5年間の県等への報告と税務署への届出、5年後からは3年に一度の税務署への届出書の提出で総額150万円ぐらいにはなるのではないでしょうか?)も前もって提示しておいた方がいいと思います。その上で税理士とお客様との二人三脚で適用していくこととなります。

株式を贈与してしまった後に認定申請をして要件を満たさずに認定されないと大変なこととなります。そこで、実際に株式の贈与を実施する前に事前に都道府県で確認申請をすることをお勧め致します。事前確認申請書を提出して、認定要件を満たしていることが確認されると県等から確認書が交付されますから、その後に実際に贈与をして改めて認定申請書を提出ぐらい慎重であった方がいいと思います。



当日に参加者から出た先代の認知症問題について

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認知症等で先代の能力に瑕疵がある可能性がある場合には、当然意思能力に問題があるため、家庭裁判所に成年後見人等の選出をしてもらう手続きが必要となりますが、この手続きには相当な期間を要します。要するに、認知症等になる前に私たち税理士の提案で対策をしないといけないということでしょう。



民法改正で遺留分権利者が遺留分の侵害を受けた場合にする請求が金銭の支払請求となります。(新民法1046条1項)現行法では、非上場株式の贈与の一部が遺留分を侵害している場合、遺留分権利者が遺留分減殺請求をすると、結果的に遺留分権利者と遺留分減殺請求を受けた者が非上場株式を法定共有(一株を相続人が共有)するのが原則でした。これが、改正により金銭の支払で解決することになったのですから、先代の生前に後継者に対して株式の全てを贈与するか、遺言で株式の全てを相続させて、後は遺留分に相当する金銭債権の用意をしておくというアドバイスが私たち税理士に求められることとなります。



この民法改正で、経済産業大臣から確認証明書の交付を受けて家庭裁判所に申し立てをするような面倒なやり取りが必要であった民法特例や生前の遺留分放棄などの手続きは不要となるのです。



また、民法改正で死亡前にされた相続人への贈与(特別受益)のうち遺留分額の算定の対象となるものを死亡前10年間にされたものに限定するという部分もおおきな改正点でもあります。後継者が私たちのお客様だとすると今回の民法改正で随分と後継者を他の相続人から守ることが容易になったと感じます。



最後に

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説明したじゃ済まされない? 以前、農家の資産家の相続をしましたが、私から農地の納税猶予の説明をさせていただきました。相続税の申告が終了してからしばらくすると、年一の確定申告の時期に「友人からこんな制度(農地の納税猶予)があると聴いたんだか、なぜ農地の納税猶予を利用しなかったんでしょうか?」と尋ねられたことがありました。



要するに、事業承継税制を適用しないお客様でもこの制度の説明をした上で、「途中で納税が確定してしまうリスクがあるから?」「猶予税額が贈与等の時点では僅少であるから?」その他の理由で制度の適用を選択しないという同意書を私たち専門家はいただいておく必要があるのです。



現在では事業承継税制の使い勝手が高まったことで、承継支援を売り文句にした金融機関やコンサルタントによる私たちのお客様への営業がされる可能性があります。実際に私の事務所にも「ホームページをみた、今の税理士が事業承継についてなんのアドバイスもしてくれない!」という相談を受けました。よって、税理士が支援に消極的だとお客様が離れていくことも考えなくてはなりません。それと同時に事業承継とは社長が変わることですから、先代と異なる考え方をもった後継者がコミュニケーションを取りやすい同世代の税理士への乗り換えを防止するためにも、先代の仲立ちのうえで後継者との意思疎通を図っていくことも大事なことでしょう。



この制度の勉強をさせていただく機会をいただけた沖縄全国研究集会に感謝をしております。

千葉税経新人会 黒川豊




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